事例5 Visit Japan Web
「Visit Japan Web」は、デジタル庁が提供している、海外から日本へ入国・帰国する方が到着空港での入国手続(入国審査・税関申告)を行うためのウェブサービスです。出入国に係る手続などについてデジタル技術を活用し完結させること(Contactless travel)を目的とし、2021年12月に運用を開始しました。以降、安定運用を実現するとともに、利用者にとって、使い心地がより良いものになるよう、関係省庁と連携の上、必要な取組を継続的に行っています。
目次
【課題1】利用者目線での利便性向上の徹底
Visit Japan Webには、運用開始当初からしばらくの間、入国審査用と税関申告用、2つの二次元コードが存在していました。
そもそも、Visit Japan Webの二次元コードは、各手続において求められていた紙の書類に代わるものであり、行政から見れば、それぞれの手続に対して、別々の二次元コードが存在することに違和感はありませんでした。
しかし、利用者から見たとき、2つの二次元コードが必要であるという合理性はなく、むしろ、外国人利用者からは「なぜ、2つの二次元コードが必要なのか?」という疑問の声が多く挙がっていました。
解決のポイント1 二次元コードの統一は、1つのマイルストーン
こうした利用者の声に応えるべく、デジタル庁は、2024年1月、関係当局の理解と協力を得て、2つの二次元コードを統一することに成功しました。しかし、この取組は、マイルストーンの1つでしかありませんでした。
もちろん、二次元コードを統一することで、外国人利用者の手間は軽減されました。一方で、統一された二次元コードを2回読み取る必要があったため、「なぜ、1回で済ませられないのか?」という新たな疑問の声が生じていました。
入国審査と税関申告は、それぞれに異なる法令に基づいて行われるため、どちらか1回で済ませられるものではありません。しかし、「それぞれの手続に必要な情報の読取を同時に行ってはいけないわけではない」という利用者視点に立った逆転の発想から、ワンストップサービス実現の余地があることが見えてきました。
解決のポイント2 入国管理当局、税関当局、デジタル庁のコラボレーション
Visit Japan Webの二次元コードを統一しただけでは、ワンストップサービスは実現できません。必要とされたのは、到着空港における既存の手続のオペレーションを変えることでした。また、到着空港にはそれぞれの事情があり、それも考慮しなければなりません。そのため、デジタル庁と入国手続の現場を担う関係者(入国管理当局や税関当局など)とのコラボレーションが不可欠です。関係者が一丸となり、ワンストップサービスの実現のため、それぞれが主体性を持って取り組めるかが重要なポイントになりました。
その後、入国手続の現場を担う関係当局の積極的な取組もあり、「共同キオスク」の設置、運用が主要空港から順次進められています[図1]。この共同キオスクを利用することで、これまで入国管理当局及び税関当局にそれぞれに提供していた旅券情報や申告情報などを、同時に提供することが可能となり、利用者視点で見たとき、重複していた各手続の手間の解消につながることが期待されています。

解決のポイント3 いまや世界も注目する「異色」のコラボレーション
入国手続の現場を担う関係当局とデジタル庁のコラボレーションは、世界でも注目されています。出入国に係る手続などについてデジタル技術を活用し完結させること(Contactless travel)が、国際的に共有される目的となっていますが、世界を見渡すと、必ずしも日本のように関係者間の緊密な連携ができていないのが実状です。
そのため、「日本の経験を共有してもらいたい」といった話が世界各国から寄せられ、国連開発計画(UNDP)が主導する太平洋諸島諸国(フィジー、パラオ、バヌアツ)に対するミッションにも参加しました[図2]。また、カンボジアやベトナムなどの入国管理当局のスタディツアーの受入れも行いました。こうした取組では、Visit Japan Webや入国手続の現場から、さらなる進化のヒントを得られるよう、単に一方的に日本の経験を共有するのではなく、能動的で双方向性のあるコミュニケーションを進めています。

【課題2】世界中の利用者の期待に、どう応えるか
行政のデジタルサービス開発において、「利用者の声を聴くことが重要である」という話は様々な場で言われています。
しかし、Visit Japan Webは世界中に利用者を抱えているため、利用者の声を聴くことは容易ではありません。
また、各国で文化、言語、価値観が異なることもあり、声を聴いただけでは、本質的に求められていることに辿り着くことは困難です。
そこで、まずは、できる限り多くの利用者から声を集め、その声の中にある本質的な「期待」を見極めていく取組を始めました。
解決のポイント1 リアルタイムでの課題把握
可能な限り多くの利用者の声を聴くため、サービスデスクによる対応のほか、チャットボットも活用されています。サービスデスクに寄せられる問合せ内容やチャットボットの利用データを分析することで、Visit Japan Webの中で生じている課題をリアルタイムで把握することが可能になり、安定運用の確保と、使い心地の迅速な改善につなげていきました。
解決のポイント2 利用者の声から、期待されていることを特定
例えば、「入力項目が分かりづらい」という声が寄せられたとします。しかし、その「分かりづらい」には様々な原因があると考えられます。そもそも、入国審査や税関申告に必要な情報は、専門的な用語も多く、決して「分かりやすい」ものではありません。「分かりづらい」の原因がそこにあるのであれば、入国手続を担う関係当局に「もう少し表現を工夫できないか」などの相談をすることもできます。一方で、原因がVisit Japan Webの言語対応のクオリティによるものであれば、Visit Japan Webが解決しなければなりません。
こうした利用者の期待の見極めに有効な手段は、直接、話を聴くことです。現地に赴き、利用者や旅行会社、エアラインや日本の在外公館、商工会、商工会議所の関係者の方々との緊密なコミュニケーションを行う機会を積極的に設けています[図3]。

解決のポイント3 限られたリソースを最大限に活用
Visit Japan Webには、日本語、英語、中国語、韓国語、ベトナム語に対応したページがあります。特にベトナム語のページについては、訪日ベトナム人の数も多く、必要性を求める声が多かったこともあり、2024年夏に新たに用意されました。
一方で、例えば、税関申告のための「携帯品・別送品申告書」は、フランス語、スペイン語、ポルトガル語をはじめ、そのほか多くの言語にも対応しています。そのため、「Visit Japan Webでも、紙と合わせて同じ言語に対応すべきだ」との声もあります。
理想は、「全ての言語に対応したページを用意する」ということであり、その対応は「やるべきこと」なのかもしれません。しかし、現実的にはリソースは限られています。
Visit Japan Webは、その限られたリソースを最大限に活用しながら、安定運用という至上命題を実現し、より多くの期待に応えていく、そんな新たなチャレンジが求められるフェーズに入っているのかもしれません。