【インタビュー】自治体職員の使いやすさが、行政サービス向上の鍵
目次
- 担当者
- 給付金の受給に関わる全ての人の負担削減を目指す
- 自治体職員が「やるべき仕事」に集中できる環境づくり
- 心掛けていたのは、不安や不満など、あらゆる「不」の解消
- 関係者全員が顔を合わせて対話できる場を設ける
- 行政官も巻き込み、使いやすさを徹底的に検証
- 関連ページ
担当者
シニアエキスパート 住田 智子
2022年、給付支援サービスの前身である「自治体共用SaaS」に民間人材として参画。現在はVisit Japan Webをはじめ、幅広い関係者が関わるプロジェクトに積極的に参画している。
※所属・職名などは取材時のものです。
給付金の受給に関わる全ての人の負担削減を目指す
―この取組の目的と特徴について教えてください
住田 まず、給付支援サービスが生まれた背景の1つに、新型コロナウイルス感染症の流行があります。コロナ禍以前は、給付があまり頻繁ではなく、紙を使って申請手続が行われていました。ところが、コロナ禍で特別定額給付金の支給事務が始まると状況が一変しました。給付までの迅速化が求められることで、多くの自治体で膨大な時間と労力、費用がかかる事態に。そこで、住民への給付までの時間を短縮するとともに、自治体職員の負担を減らすための対策が求められ、その流れの中で給付支援サービスの構想が始まりました。この取組の大きな特徴としては、サービスの最終利用者である住民だけではなく、自治体職員の使いやすさにも配慮していることだと考えています。
自治体職員が「やるべき仕事」に集中できる環境づくり
―プロジェクトの責任者として、どのような役割を担っていたのでしょうか
住田 自治体職員がより本質的な業務に集中できる環境づくりのお手伝いができるように、自治体職員の方々とコミュニケーションを取っていました。その中で意識するようにしていたのが、自治体職員の業務負荷です。民間企業では、職員の人件費コストを減らす動機が強いですが、行政組織では行政職員自身が頑張ることで問題を解決しようという意識の強さを感じています。しかし、本来の自治体職員の役割は、手続を処理することではなく、住民に行政サービスを届け、支援が必要な人に寄り添うことだと思います。業務の負荷を減らすことは、その時間を確保するために必要であるため、給付支援サービスのようなサービスで効率化を図ることが必要であるという考えをお伝えし、合意形成をしていきました。
心掛けていたのは、不安や不満など、あらゆる「不」の解消
―自治体と連携する上で注意していた点、工夫していたことを教えてください
住田 自治体との連携では、不安な点や不明点を解消し、信頼関係を築いていくことが何より大切だと考えています。そのため、自治体向けに開いた説明会で頂いた質問には、時間がかかったとしても全てに回答していました。また、業務の中に潜んでいた不満をきちんと解消できる機能を実装し、サービスの利用価値を感じてもらえるように心掛けていました。例えば、問合せ対応。実は、住民からの問合せの多くは「申請状況の進捗確認」でした。その課題を解決するため、給付支援サービスでは住民自身が申請状況を確認できる機能を追加しました。
関係者全員が顔を合わせて対話できる場を設ける
―複数の関係者の意見を取りまとめる際、どのように進めていたのでしょうか
住田 いくつもの府省庁が携わるような関係者が多いプロジェクトでは、個別に要望を聴いていくと関係者ごとに異なる要望が挙がり、合意形成が難しくなります。そんなときは、時間がかかったとしても、関係者をできる限り同じ場所に集め、対話できる場を設けるようにしています。
又聞きではなく本人の言葉で意見を聴くことで、それぞれの事情がより理解でき、全員の意識が揃いやすくなる。結果的に、合意形成も円滑に進み、全体の納得感にもつながると考えています。
行政官も巻き込み、使いやすさを徹底的に検証
―サービスの使いやすさを担保するために、気を付けておくべきことはありますか
住田 仕様を深く知らないデジタル庁の職員に操作をしてもらい、分かりづらい点や、挙動の不具合を確認するといった取組を含め、徹底的に検証することです。「システムに詳しくないからコメントできない」と遠慮する方もいますが、むしろ実際の利用者と同じ視点で試せるため、どんな些細なことでも意見していただくようにお願いすると良いと考えています。
個人的には、行政官の方々ご自身に操作してもらうのもおすすめしたいです。なぜなら、実際に触れることで行政官自身が「誰でも直感的に使えそうか」、「円滑に手続が完了できそうか」といった点が確認できるからです。利用者と同じ気持ちや状況でサービスに触れてみる……基本的なことではありますが、とても大事なことだと思います。