【インタビュー】行政に利用者の声を届け、安定した使い心地を叶える
目次
- 担当者
- 大切なのは「どれだけ使われたか」ではなく「どれだけ快適に使えたか」
- 関係省庁の「調整役」であり、利用者の声を届ける「橋渡し役」に
- 利用者が求める「最大公約数」を見極め、それをシンプルに実現する
- すぐには変わらないからこそ、時間をかける覚悟を持ってほしい
- 関連ページ
担当者
企画官 加藤 博之
税制・税務行政や外交などで培った経験を生かすべく、2020年9月、内閣官房IT総合戦略室に異動。以後、2021年9月のデジタル庁発足当時より、デジタルインボイス・Visit Japan Webなどの取組を主導。
※所属・職名などは取材時のものです。
大切なのは「どれだけ使われたか」ではなく「どれだけ快適に使えたか」
―この取組を進める上で、特に意識していることを教えてください
加藤 Visit Japan Webでは、利用率を引き上げること自体を目的にはしていません。大切なのは、サービスを必要とする人が負担なくスムーズに利用できるようにすること。最も重視しているのは「使い心地」です。使い心地が高まれば、利用率は自ずと向上していくと考えています。一方で、利用率が低い国や地域があれば、何かしらの理由があると考え、その解決方法を検討します。
そのため、様々なデータだけでなく、利用者の声も積極的に集め、その検討に生かしています。まさに「データを使うを当たり前に」の実践です。デジタルとリアルの両面で、より良い使い心地の実現に尽力しています。
関係省庁の「調整役」であり、利用者の声を届ける「橋渡し役」に
―複数の関係省庁と連携する際、どのような役割を担っていましたか
加藤 この取組においては、出入国在留管理庁、財務省税関などの入国手続の現場を担う関係省庁の理解と協力が不可欠になります。しかし、各省庁、それぞれに求められる役割と担うべき責任が異なるため、どうしても自己最適の実現に注力してしまう傾向がありました。そのため、デジタル庁としては「入国手続のデジタル化を実現させる」という1つのチャレンジを打ち出し、その実現に向け、関係省庁が連携を図ることを求めました。
その上で、デジタル庁は関係省庁の「調整役」だけでなく、利用者の声を届ける「橋渡し役」も積極的に担いました。デジタル化を優先するあまりに、本来の業務が損なわれるようなことがあっては本末転倒です。デジタル庁は必要以上に踏み込みすぎず、関係省庁が自分たちにとって最適なデジタル化を自ら考えてもらい、その実践を少しだけお手伝いすることに徹することが大事だと考えていました。
利用者が求める「最大公約数」を見極め、それをシンプルに実現する
―幅広い利用者の使い心地を良くするために工夫していたことなどはありますか
加藤 Visit Japan Webは、入国手続をスムーズに終わらせるためのツールでしかありません。故に、シンプルであるべきなのです。目指しているのは、特別な操作をしなくても自然と正しい選択ができて、気付かないうちに操作が完了している状態。その実現に向けた工夫が、多様な利用者のニーズの中から「最大公約数」を見付けることでした。
実は、私自身、Visit Japan Webのヘビーユーザーなので、利用者としての視点を持つ機会は多いです。しかし、それだけでは不十分な部分もあります。文化や言語、価値観が異なる外国人利用者の感覚は、実際に話を聴かないと分かりません。だからこそ、私自身が外国人利用者の意見を直接聴く場を定期的に設け、対話を重ねています。ただ、一人ひとりの意見をそのまま反映していては、かえって使いにくくなるおそれがあります。そこで、その対話がもたらしてくれる共通のポイント=「最大公約数」を見付け、それを基に改善の検討を行うようにしています。正直、時間も労力もかかりますが、使い心地をより良くしていくためには欠かせない取組として継続しています。
すぐには変わらないからこそ、時間をかける覚悟を持ってほしい
―より良いサービスづくりを目指す行政官にアドバイスをお願いします
加藤 良いサービスを作るために大切なのは、「まず、自分自身が提供するサービスを使ってみること」だと思います。実際に触れてみなければ、何が課題なのか、どこをどう変えるべきなのかが見えてきません。自分が利用者だったらどう感じるかを知ることが、最も身近な利用者視点になるはずです。
そしてもう1つ大切なのが、時間をかけてでも変えていく覚悟です。例えば、より良いサービスを提供するためには、行政の仕組みそのものを変えなければいけない場面もあるでしょう。その際は、想像以上に多くの調整が必要になります。関係省庁に利用者の声を届けたからといって、すぐに仕組みが変わるわけでありません。そこには長年かけて築かれた制度やルールがあり、それらを動かすにはどうしても時間がかかるものです。「時間をかけて信頼関係を築き、少しずつでも変えていく」という覚悟と姿勢が肝要だと思います。