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【インタビュー】使いやすさと分かりやすさを、諦めずに追求し続ける

目次

担当者

坂本参事官補佐のバストショット。ノーネクタイにジャケットで誰かに話しかけている様子。

参事官補佐 坂本 秋彦
2022年1⽉よりデジタル庁参事官補佐に就任。政府共通ウェブサイトプロジェクトをはじめ、幅広い分野を担当。行政サービスのデジタル化推進や、複数の省庁が携わるプロジェクトに積極的に参画している。

※所属・職名などは取材時のものです。

目指したのは、全ての人が迷わず使えるウェブサイトの実現

―この取組の目的や特徴について教えてください

坂本 私がデジタル庁に入庁した時点で、ウェブサイト自体は既に立ち上がっていました。その運営を担当する中で、トップページを含めたリニューアルも行うことになりました。当時はスマートフォン優先の設計で、新しい情報が時系列で表示される仕組みを採用していました。サイト構築当初は、パーソナライズ機能(※1)の導入を検討していたようですが、規制などの影響によりパーソナライズ機能については断念せざるを得なかったと聞いています。
デジタル庁ウェブサイトの運営や裏側の仕組みであるコンテンツ管理システムの構築を実施する中で、特に意識していたことの1つに、ただ規格や基準を満たすだけではない、「本質的な意味でのウェブアクセシビリティの確保」があります。デジタル庁には、自らも視覚障害当事者であるウェブアクセシビリティの専門家が参画した、民間人材によるウェブアクセシビリティの専門チームがあります。当該チームには、このほかにも情報設計の専門家やエンジニアが所属しており、彼らと密に連携してプロジェクトを進めていきました。
取組の具体例としては、ハンバーガーメニュー(※2)の改善が挙げられます。主にスマートフォンでサイトを閲覧する場合に、視覚障害者にもメニューの開閉が分かるようなものを作る必要があり、アクセシビリティチームとデザイナー、事業者の全員で議論を重ね、アクセシブルなハンバーガーメニューを作りました。

※1パーソナライズ機能:利用者に合わせて情報の表示を最適化する機能。
※2ハンバーガーメニュー:ウェブサイトやアプリケーションで使われるメニュー表示の一種。

「誰一人取り残されない」を絶対に諦めたくなかった

―ウェブアクセシビリティに力を入れていた背景を教えてください

坂本 世の中には、視覚、聴覚、身体など、様々な障害を持つ人がいます。行政のサービスは代替が利かないものが多く、デジタル上でうまく使えなければ、窓口に足を運ばなくてはなりません。しかし、障害のある方々にとって、外出して手続をするのは、健常者よりもはるかに大きな負担になります。「利用者視点」とは、本来、そうした人々を含めたものであるべきだと考えています。
様々な障害に向けた配慮は、紙の時代には「どうしようもないこと」として諦めるしかありませんでした。しかし、デジタル化が進んだ現代では、「諦めるしかない」という前提が変わったんです。デジタルなら何も諦めず、誰一人取り残されないサービスを実現できる。そんな希望が見えてきたからこそ、できることは何でもやっていくべきだと思っています。

行政のウェブ運用が良くなるように知見を惜しみなく共有する

―プロジェクトを通じて得た経験を、どのように生かしていますか

坂本 現在、このプロジェクトで得た知見を基に、各府省庁のウェブ運用担当者向けに勉強会やワークショップ、情報共有の場を設けるなどしています。単なるサイトリニューアルの知見共有に留まらず、日々のコンテンツ更新に係るコストの削減や適切な調達の進め方などに関する意見交換も行っています。また、デジタル庁内の民間専門人材の力を借りて、広報目線での情報発信のポイントを共有するなど、実務に役立つ内容を意識しています。各府省庁と連携しながら、行政全体でウェブサイトにおけるより良い情報発信を実現できるよう取り組んでいます。

相互理解が深まるほどに、良いサービスが生まれやすくなる

―デザイナーと協業することのメリットを教えてください

坂本 法律や制度を基準に考えて仕事をする私たち行政官に比べ、利用者の使いやすさを基準に仕事をしてきたデザイナーの方は、より一般の人に近い目線を持っていると思っています。そのため、彼らと協業することで、行政官の目線からでは気付きにくい点を見付けやすく、新たな発想を得られるのが大きなメリットだと感じています。また、コミュニケーションを重ねるほど、デザイナーは行政の事情や仕組みを、行政官は「利用者視点」を意識できるようになります。
こうした相互理解が進むと、「行政の要件」と「利用者の使いやすさ」を両立させたサービスにつなげられると信じています。結果として、誰もが使いやすく、より良いサービスが生まれやすくなるでしょう。

「何をやるのか」ではなく、「なぜやるのか」を理解する

―より良いサービスづくりを目指す行政官にアドバイスをお願いします

坂本 行政官は2年周期で異動することも多く、前任者から十分な説明を受けることができないまま業務に携わるケースも少なくありません。そのため、単に作業として進めるだけでは、施策の背景や意図を十分に理解しにくいのが実状だと思います。厳しい言い方をすれば、業務の手順自体は教われば誰でもできます。しかし、行政官に求められるのは、「なぜこの方法なのか」、「なぜこの制度が必要なのか」、「なぜ今も続いているのか」といった本質的な部分まで踏み込んで理解すること。制度の成り立ちや適用される法律・規則に加え、その運用についても経緯を深く知ることで、単なる作業の枠を超えた視点を持てるようになります。
そうすると、「そもそもこの制度を見直せば、この作業自体が不要になるのではないか」といった根本的な課題解決の方法にも気付けるようになるはず。業務を進める中で常に、「何をやるのか」だけではなく「なぜやるのか」を考えながら取り組むことが重要と考えています。