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法令×デジタルワークショップ

2024年3月8日(金)、法令分野に明るくない方でも法令データを利活用したサービスやツールを開発できるよう、法令の仕組みや法令APIの基礎について学べる「法令×デジタルワークショップ」を開催しました。

1. 開催の概要

デジタル庁は、法令等データの利活用による産業・技術・政策立案の発達等を目的として、法律や政省令等のデータを提供する「法令API」の高度化に取り組んでおり、2024年度の改修を目指しています。「法令API」の高度化に向けたニーズの収集のため、また法令データを利活用した法制事務補助ツールの開発やリーガルテックのビジネス創出を促進するために、以下を内容とするワークショップを行いました。

  • 法令分野に明るくない方でも、法令データを利活用したサービスやツールの開発を開始できるよう、法令の仕組みや法令APIの基礎に関する解説
  • 法令APIを用いたサンプルコード開発の体験会を実施
  • 「法制事務」の実態や、「法令×デジタル」の取組についての紹介

対面参加とオンライン参加のハイブリッド開催とし、合計で200名を超える方々に参加頂きました。また、開催中にWebフォームを用いた質問・コメントを募集し、参加頂いた方々から多くの質問・コメントを頂き、ワークショップ中に回答・紹介しました。

「法制事務の実態の紹介」をしている様子が映っている。

2. 各プログラムの報告

【Part1】法令×デジタルの取組紹介: 10時40分から11時00分

デジタル法制ワーキンググループの経緯や法制事務のデジタル化・法令データ利活用促進に向けた取組、法令APIや生成AIを活用した法制事務補助の実験、法令×デジタルの未来像に向けた「デジタル法制ロードマップ」の概要等について山内氏(デジタル庁)が説明しました。説明資料は下記をご覧ください。

「法令×デジタルの取組紹介」をしている様子が映っている。

【Part 2】法制事務の実態の紹介: 11時00分から12時00分

法律案の立案など法制事務の経験を持つ4名の職員がパネルディスカッションを行い、法制事務の実態を紹介しました。
(登壇者)

  • 我有隆司氏(弁護士、デジタル庁)
  • 谷口健二郎氏(総務省)
  • 石井友梨氏(金融庁出身、デジタル庁)
  • 佐々祐太氏(総務省)

以下、当日の議論トピックごとにパネルディスカッションの様子をご紹介します。

トピック:法制事務の概要

初めに、我有氏から法令立案の全体の流れについて「法制事務とは、法令等の立案、審査及び調査等の事務全般をいいます。法令は、『政策検討』、『資料作成』、『法令案審査』の順で立案が進みます。このうち、『法案審査』の結果によって修正作業が発生するため、『資料作成』、『法令案審査』の工程を繰り返し、最終的に、官報によって公布するための手続までを行います。」と解説がありました。

我有氏は特に「法令のうち、特に法律の立案では、国会の審議を経て成立することが必要です。そのため、法案審査の終了後は閣議に付され、閣議決定の後、国会に提出され、国会審議で成立された場合に、最終的に公布に至ります。政令や府省令に比べて公布までの工程が多く、その分ステークホルダーも多いため、立案過程では多くの調整が発生します。それに伴い、審査用の資料や、国会に提出するための資料など、政令や府省令よりも多くの資料を作成し、それら全てについて、レイアウト・形式や誤脱字・転記ミス等を目視でチェックする必要があります。こうした業務の性質から、法制事務にかかわる職員の負担も大きくなっており、法制事務のデジタル化による効率化の必要性が高いと考えられています。」と説明しました。

ファシリテーターを務めた弁護士の我有氏が話している様子が映っている。

その後、政策の内容面の観点からは、谷口氏から「資料作成のプロセスの前にある『政策検討』が重要です。政策検討は、現在どのような規定があり、それをどのような趣旨・目的で、どのような規定に変えていきたいのかを考える、制度設計の段階です。」との言及がありました。
法律が施行されることによって、国民の権利・義務関係にどのような影響を与えうるかを議論する、まさに法令立案における本質的な部分であるとの点で、谷口氏は「クリエイティブな業務」と表現していました。

トピック:法制事務で作成される資料の複雑さ

まず、新旧対照表について話題があがりました。
我有氏から「政策検討を繰り返した上で、次に行われるのが資料作成です。まず作成される資料は、『新旧対照表』と呼ばれる資料です。一部改正の結果、現行の『旧い』改正前の条文が、改正後の『新しい』条文に、どのように書き換えられるかを2段表形式で表します。」と説明がありました。

次に、いわゆる「案文(改め文)」について話題が移りました。
我有氏は案文(改め文)について「例えば、とある法律の第一条における ”AAA”という文字を ”BBB” に改正する場合には、『第一条中 ”AAA” を ”BBB” に改める。』という文字の操作が案文(改め文)において記述されます。このような文字の操作を行う案文(改め文)が、一部改正法案として国会に提出され、審議の対象になります。」と解説しました。

説明する総務省の谷口氏が映っている。

さらに我有氏は「案文(改め文)には、改正したい対象箇所をピンポイントで確定させ、その文章に対して、どのような変化、効果を発生させたいかを一意に特定できる点や、新旧対照表と比較して文章量が少なく済む点でメリットがあると言われています。その反面、改め文の書き方を一文字でも誤ると、意図しない改正になってしまいます。」と案文(改め文)作成の難しさについて言及しました。

また、谷口氏から「条文によっては、編集時に特殊な記法(※)を求められたりする難しさがあります。」といった指摘に続けて、「複数の府省庁が手分けして改正作業を行っていた際に、自分の編集箇所で1行のずれが起きてしまい、他の府省庁の職員にそれぞれページずれを反映してもらうよう電話をかけ続けたということがありました。」という事例について、紹介がありました。

※特殊な記法の一例として以下のような手順で作業を行うことがあります。

  1. 表形式の条文の一部を改正する場合に、表の罫線自体もあたかも文章の一部であるかのように、行の途中で分割して記述し、分割した前後のつながりを手作業で調整することがある(図1を参照)。しかし、この方法はワープロソフトの通常の記述方法ではないため、文字を追加したり、削除したりするごとに、文字のずれを手作業で反映する必要が生じてしまう。
  2. 下のマス目の図(図2を参照)は、案文(改め文)の作成中、改正後の内容を示す表の中に、新しく「●」という一文字を追加する修正が加わった場合を想定して、実際にどのような作業が生じるかを示したものである。この場合、「働」の文字は①の矢印が指す箇所に、「る」の文字は②の矢印が指す箇所に、「付」の文字は③の矢印が指す箇所にといった形で、「●」が加わった分、ずれた文字を一つずつ、ずれが影響する行数の分だけ繰り返し修正を行う必要が生じる。このように、法制事務にあたる職員は、表の中に記載される文字を追加または削除する度に、文字や表の罫線の位置を手作業で一つずつ修正している。

(図1)
右ページ・左ページの2ページに渡って縦書きの文章が表示されたワープロソフトの編集画面イメージ。編集中の文書には改正内容を示す表がありページ下端で表の途中に改行が生じている。改行された部分に「このつながりを手作業で調整している」の説明がある。

(図2)
図1に示された改正内容にさらに「●」が追加された際の編集画面イメージ。表示にずれが生じた「働」「る」「付」の各文字に対して、移動元と移動先が矢印で結ばれ①②③の数字が振られている。

最後に、「新旧対照表」や案文(改め文)の他にも、政府内の検討資料や、最終的な公表資料として、様々な資料を作成する必要があることについて話題が移りました。

我有氏からは政府の作成資料について「例えば、令和5年通常国会で成立した『デジタル社会の形成を図るための規制改革を推進するためのデジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律案』の場合、政府内検討資料として、①案文・理由(74頁)、②新旧対照表(約170頁)、③説明資料(約250頁)、④用例集(約50頁)、⑤参照条文(約1,120頁)が作成されました。公表資料としては、①、②については上記同様、⑥要綱(32頁)、⑦参照条文(72頁)、⑧概要資料(ポンチ絵)が作成されました。」と説明がありました。

続いて、谷口氏は用例集について「具体的に条文の文言を詰めていく段階では、既存の法令において類似する言い回しである『用例』を調べる作業もあります。たとえば、同じ言葉を異なる法令で別の意味で使ってしまうと法令の解釈に紛れが生じてしまったりするので、既存の法令と矛盾が生じないよう、既存の法令の言葉遣いにならって規定する必要があるからです。これらの用例をまとめている資料が④『用例集』です。」と解説しました。

政令や府省令の改正の場合との比較として、石井氏は、「多くの場合、府省令では改め文ではなく『新旧対照表方式』という改正方式が採られており、改め文を書かずに新旧対照表で府省令改正が行われます。」と説明しました。

説明するデジタル庁の石井氏が映っている。

トピック:今後に向けて

佐々氏は作成資料について「法制事務は作業量が多く、関係者や関係法令が多ければ多いほど大変な業務である一方で、ルールメイキングの面白さを感じられるやりがいのある業務です。法制事務で作成される書類の中では、政策の必要性や制度設計を説明する『説明資料』に一番思い入れがあります。」と振り返りました。

説明する総務省の佐々氏が映っている。

また、我有氏は、「法制事務は特殊な領域のようで、民間企業でのドキュメントワークと通じるところがあると感じました。」と述べました。

今後、他領域のデジタル化の知見を法制事務のデジタル化に活かすことや、法制事務のデジタル化が、他の領域のデジタル化に繋がることも期待されます。

【Part 3】法令の仕組み・法令APIの基礎知識(メタデータ編): 13時30分から

現在正式提供している法令API(Version1)の概要について、続いて法令APIを使用するために必要な法令の仕組みの基礎知識として、法令の種別と法令ID、法令の改正と履歴などについて、最後にコードを交えた開発方法について、山内氏が解説しました。

説明するデジタル庁の山内氏が映っている。

【Part 4】法令の仕組み・法令APIの基礎知識(法令本文編): 14時45分から15時15分

法令APIを使用するために必要な法令の仕組みの基礎知識として、法令の条文構造の仕組みなどの概要、また法令APIやe-Gov法令検索で取得できる法令本文のフォーマットである「法令XML」について山内氏が解説し、最後に具体的な条文を例にサンプルコードを交えて開発方法を実演しました。

【Part 5】法令APIプロトタイプ解説: 15時15分から15時45分

法令APIの高度化に向けて開発した「法令APIプロトタイプ」について、現在正式提供している法令API(Version1)と比較した改良点や、3月20日まで開催していた公開テストでの利用方法などについて、山内氏が解説しました。

また、法令APIプロトタイプを用いて2023年11月に開催した法令APIハッカソンについて、提出作品を紹介し、法令データを活用したサービス開発のアイデアを紹介しました。

※【Part 3】から【Part 5】で使用した解説資料につきましては、今後内容を整えた上で、準備が出来次第、改めて公開することを予定しています。

【Part 6】法令データを用いた開発のワークショップ: 16時00分から17時00分

【Part 3】から【Part 5】までに、説明があった法令の仕組みや法令APIの基礎知識を用いた開発を体験できる機会として、ワークショップ参加者も、現在正式提供している法令API(Version1)及び法令APIの高度化に向けて開発した『法令APIプロトタイプ』のそれぞれを用いて、法令APIを用いたサンプルアプリの開発に取り組みました。開発を行っていただいた後、コードの正解例や注意点などについて、山内氏が解説しました。

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